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青年は両手を上に挙げ、やるせなさそうに苦笑した。
「…負けたわ」
しかし蔡瑁は首を振る。彼は青年の素質を認めることにした。
「いや、そうでもない。もっとまともな武器を持っていたら分からぬ」
「そうかい?嬉しいけど、俺にはこいつが精一杯だ。両親も死んで、金も無い。武器なんて買えねーや」
「…そうか」
急に蔡瑁は、その青年に哀れみを感じた。このままではこの青年はのたれ死ぬに違いない。武勇以外に何も見るところがないのは、分かる。
しかしその武勇こそが、大きな魅力であった。
「俺の勝ちだから戦利品はやれん、が…働き口なら工面してやろうか」
「…いいのか?」
「ああ。兵卒として仕官しないか。勿論住むところも用意する」
するとしてやったりとばかりに、青年はにやりと笑う。
「そう言うのを待ってたぜ。あんたを狙ってよかった!」
「…最初から仕官先が目当てだったのか?」
「まーな。劉表は文官ばかり集めてるって聞いて、だったらあんたに頼もうと思ってさ」
蔡瑁は苦笑した。そして、ふと沸いた疑問を聞いてみる。
「なら曹操のところにでも行けばよかったではないか?」
すると青年は顔をしかめた。
「嫌いでね。ああいう奴は。まるで俺を見てるみたいだ、あの傍若無人っぷり!」
蔡瑁は思わず吹き出した。何より、あの姦雄曹操と自身を何の遜色もなく比べてしまう尊大さが、気に入ったので。
「そうかそうか。劉備は?」
「あんな、食えないとこはやだね」
「孫権」
「なんかむかつくからやだ」
「劉璋」
「あの蜀の険しい道通れってか!?」
「ならば袁紹はどうだ」
「家柄を鼻にかける奴とはお近づきになれねーんだよ」
ひとしきり青年なりの英雄譚を聞き、笑い苦しんだのち、蔡瑁は改めて言った。
「仕方のない男だ。そこまで言うならうちに仕官しろ。さて…名前は?」
青年は、悪どい、しかし何処か憎めない笑いを浮かべた。
「魏延…字は文長」
こうして、魏延と蔡瑁は出会った。
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