無知の幸福

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  夏休みも半ばを過ぎて『課題』という言葉がチリチリ背中を焼き始めた頃、賢が遊びにきた。 「ねえ、今度部の集まりがあってさ。智希も一緒に来ない?」 子犬を思わせる瞳を輝かせ、賢は俺を真っ直ぐに見上げてくる。受験なんてまだ先の高校一年の夏休み。やりたいことはやり尽くし、退屈はピークに達していた。 同行を二つ返事で了承したら、賢はB5のプリントを差し出した。そこに書いてあるのは有名な避暑地で、俺みたいな庶民には一生縁のなさそうな別荘の写真が印刷されていた。賢が通う会合のお偉いさんの持ち物なのだそうだ。 「楽しみだね、智希」 賢は恍惚と呟き、微笑んでいた。  
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