無知の幸福

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  当日は賢の父親に送ってもらった。目的地は郊外にあり、電車やバスで行けないのだそうだ。そして言われた通り別荘地が遠ざかり、建物は見えなくなっていく。それでも車は走りつづけ、やがて年季の入った煉瓦造りの洋館の前に止まった。写真のままの玄関には「×××会集会所」というミスマッチな看板が掲げられている。 「持ち主が信心深い方でさ。先生の為に無料で貸し出して下さってるんだよ」 「へえ。凄いんだな、その『先生』とかいう人」 「うん。素晴らしい方だよ、先生は」 そんな他愛のない話をしながら一週間分の衣服が詰まったボストンを抱え、俺達は車を降りた。 「いいか、ちゃんと信心してくるんだぞ」 そう言い残して賢の父親は帰っていく。 「さっ、中に入ろう。みんな待ってる筈だから」 賢の小さな手が真鍮のドアノッカーを掴み、二三度扉を叩く。 観音開きの扉から姿を現したのはそんなに歳の変わらない痩せた青年だった。  
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