無知の幸福

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  注射を打たれた後、どうなったのかはよく覚えていない。 でもそんなことはもう、どうでも良かった――― 新学期も間近に迫り、残暑の中でじぃじぃと蝉が鳴いている。 俺は締め切って熱の籠もった賢の部屋で「勉強」をしていた。 「大分巧くなったね、智希」 汗で湿った髪を撫でながら賢は微笑む。 「んっ……信心、だから……」 「そうだね。智希は気付いたんだよね。先生に尽くすのは信心だ、って」 賢は行為を中断させ、じっと俺を見つめた。キスを求めてるとわかっていたから、素直に唇を貪りあった。 「賢……」 「何?何をして欲しいの?」 賢が先生のように笑う。 鼓動が速くなるのを感じながら、俺は望みを口にした。 (了)
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