0-0.退屈な話

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「お前は、この世界が好きかい?」 男の声がした。声から察するに相当の歳のようだ。 「……随分と唐突ですね」 先ほどとは違う声がした。あまり特徴のない、中性的な声だった。 「質問は唐突だからこそ、面白い。人の本心が見える」 男は楽しそうにそう言った。 はぁ、と呆れたのか相槌なのかよく分からない返事が返ってくる。 「それで、答えは?」 男が促す。 相手は特に迷ったような声も出さず、 「さぁ、興味ありませんね」 とだけ言った。 男は「お前はつまらないやつだな」と嘆く。 相手は丁寧に「申し訳ありません」とかしこまった。 「ならば、私のことは好きか?」 またも唐突。 「いえ、特に」 即答だった。 その答えを聞いて、男は愉快そうに笑った。 「主人に長年仕えてきて、少しも主人に関心が湧かんとはな。お前はとんだ従者だよ」 相手は冗談が通じない様子でまた「申し訳ありません」と呟いた。 「お前はやはり面白いやつだな」 「どちらなんですか」 先ほどと矛盾した発言に相手は尋ねた。 「どっちもさ」 楽しそうに男は言う。 「どっちもあるからお前は面白い」 「そうですか」 相手は本当に理解したのか、曖昧な返事をした。 カチリ、と音が鳴った。 「……そろそろお時間です」 業務的に従者は声をかけた。 「わかった」 男がさも偉そうに返事を返す。 「退屈に、ならんといいがな」 男はぼそり、と呟く。 そうですね、と従者はつまらなそうに適当な相槌をうった。
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