問う

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生きる事は、哀しいこと?  けれどヴィオレットは楽しいという。 生きる事は、楽しいこと?  けれどオルタンスは辛いという。 ならば、生まれると言う事は、どういう事なのだろうか? 食い違う二人の姫君の言葉。それはイヴェールを出口の無い迷路へと引きずり込む。 生まれてくる前に死んで逝く彼には、解らなかった。いや、解ってはいたがそれが他も同じだとは識らなかったのだ。 人は必ず、自分には得られない物を求めると言う事に。自分には出来ない事に、自分にはゆけない場所に、安らぎの幻想を見てしまうと言う事に。 生者が冥府に逃避行してしまうように、亡者が還らざる彼岸に楽園を求めるように。 「……生きる事は、罪なのだろうか。望む事は、罪なのだろうか」 いつか見た、とある歌姫の物語。その最後、永遠を手に入れた魔術師が予言書から読み上げた言葉を思い出し、ふと口に出す。 「……僕には、解らない。どうして皆は自分の物語を持っているのに、それをすぐ手放すのだろう」 誰にともなく向けられたイヴェールの呟きに、双児人形は黙したまま応えない。 「生きるのは、哀しいこと?死ぬことは、救われること?」 自分の身体を自分で抱きしめながら、イヴェールは問い続ける。そして、 「君は何故、其れを選ぼうとした――?」 既に宵闇に紛れ立ち去った少年に向け、呟いた。 ――歴史が幾度も繰り返されるように、狂おしい程長い時を越えた少年も、また過ちを繰り返すだろう。 そして冬はそれを見届け、再度彼に問うだろう。その答えが返ってくる事は無いと識りながら。 生を渇望する青年と、死を望み続ける少年。 彼等の物語は平行線の如く決して重なる事は無く、しかし隣に並び続ける。白き縦糸がそう紡がれている限り―― しかし、冬が答えのない問いを重ね続けている頃。 『イヴェール』を喪った、或る壊れた妹の手に拠って、【もう一つの幻想物語】がハジマリを迎えようとしていた。 そして、二人の物語は交錯する―― (20090505) 友達がイヴェへの嫌がらせで、ロラサンに最初の台詞を言わせていたので反撃がてら書きました。
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