739人が本棚に入れています
本棚に追加
/420ページ
「よそみしちゃだめだよっ」
「大丈夫だよ。綾は心配性だなあ」
ははっ。と笑いながら、小さな子供をあやすように、彼の手があたしの頭に触れる。
大きくて温かい、男の人の手。
「……あなたの吐いた煙が、羽になって落ちてきたのかと思ったの」
笑われるかもしれないけど、別にいいと思ってそう言った。
「羽? なんのことだい?」
それには答えずに黙っていると、彼も外に気付いた。
「あっ! 雪だ。今年の初雪じゃないか」
今年で20歳になったのに、子供みたいなはしゃぎかた。
思わず笑ってしまった。
「綾にはこの雪が、煙が羽になって落ちてきたように見えたのかい?」
「そう見えただけよ」
少しムキになって言い返してみる。
「だとすると、ぼくは、まるで魔法使いだなあ」
彼はいつも困った顔をして、どうにかあたしを笑わせようとしてくれる。
最初のコメントを投稿しよう!