プロローグ

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 十二月の時期はどこか切なくて…無性に泣きたくなるのは、この時期に悲しい出来事が沢山あったからだと思う。  ガラス越しに見える街の灯りは蜃気楼みたいに揺らめいて――    あたしもその中に溶けてしまいたい。  春の訪れと共に消える、雪みたいに。 「どうかした?」  声をかけられて、はっとする。  夢から覚めたみたいに、現実が形を取り戻した。 「ごめん。少しぼおっとしちゃって」  夜景が見えるレストランでの慣れない食事に、あたし、香坂綾(こうさかあや)は、少し緊張していた。 「奇遇だね。ぼくもだよ」  目の前に座っているスーツの男性、木村孝治(きむらこうじ)くんは、照れ笑いを浮かべた。 「久しぶりに食事でも」  そう言って誘われた時は、いつものファミレスかチェーン店のラーメンかと思っていた。  迎えに来てくれた木村くんは、スーツ姿。  就職の面接にでも行ってきたのかな?  深く考えていなかったあたしを、いつもより表情も態度もぎこちない木村くんが連れて行ってくれたのは、ミシュランで三ツ星をつけられた夜景の見えるレストランだった。 「今日って何かの記念日?」
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