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「ほとぼり冷めるまでここで身を隠してろ」
「一度家に戻りたいんだけど」
「記者が張ってるぞ?」
「夜中ならいないでしょ? それに着替えとか必要だし」
「…分かった。じゃあ後で出発する。それまで休んでろ」
氷室は用があったら呼べよ、と自分の部屋に入っていった。
ベッドに横になってどうしたものかと考えてみる。
すぐにどうこうされることはなさそうね。
どこか他人事なあたしの思考。
ベッドの隣の本棚に気づいて中を覗いた。
白雪姫、シンデレラ、人魚姫、赤ずきんちゃん…子供の読むような童話ばかり。
なんとなく手に取ったのは赤ずきんちゃんだった。
パラパラと本をめくると、赤ずきんちゃんを食べようとお婆さんに化けている狼と少女のやりとりが描かれている。
あの氷室という男は狼かしら。
「お婆ちゃんの口はなんでそんなに大きいの? それはお前を食べるためだ……」
なんて……ね。
別にもう、どうだっていいけれど。
本を放り、ベッドに座る。
四時を回ったばかりだというのに、外はもう暗くなっていた。
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