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「自殺が立派じゃねえって気付いているんなら、俺も安心した」
足音が遠ざかっていく。
…何よあいつ。
一人になった途端、自殺するとでも思ったのかしら。
それからほどなくして、もう一度扉がノックされた。
「メシだぞ」
リビングに向かう。
食事は簡単なものだった。
フランスパンとスープ。
海草サラダみたいなもの。
それだけだった。
「まあ、生憎と食材を仕入れてる時間がなくてな」
氷室はちょっと言い訳っぽく言いつつも「病院の食事はうまくねえだろ。
それよりはマシだと思うんだがな」とぼやいた。
確かに。
病院の食事に慣れきってたせいか、美味しく感じる。
そもそも病院にいる間、ごはんを美味しいと思ったことなんてない。
ろくに喉を通らなかったことばかり。
「…まだ痛むのか?」
「足は歩くたびに間接が痛いわ。腕は持ち上げて何かを掴もうとすると痛いし、顔は最悪。日焼けした肌に薄いレモン水を塗った感じ」
それでもだいぶんマシになったほうだけど。
と説明した。
「体の傷が痛むのは、歩き方とか見てりゃわかる。
俺は心のことを訊いたんだがな」
氷室は苦笑しつつ、申し訳なさそうに目を伏せた。
「心は…痛むというより、もう何も感じていないわ。
前は空っぽのだったけど――」
あたしはガラスのコップを手に取った。
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