始まった2人の生活

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 十ヶ月ぶりの自宅。  ポストには案の定、テレビだの編集部だのの名刺が差し込まれていた。  全て抜き取り、ゴミ箱に入れる。  光熱費は口座から自動引き落としになっているので、電気は止まっていなかった。  タンスから服を出し、引き出しから通帳を出し、適当なバッグに詰める。  家を出る前にカレンダーを確認する。 今日は十月七日で、明日は十月八日。  あたしの荷物を見て、氷室が念を押す。 「ずいぶん荷物が少ないんだな。それで全部か?」 「ええ」  化粧とか遊び道具なんて、必要ないから。  帰り道にも、氷室は何も聞いてこなかったので、あたしの方から言った。 「明日から学校に行くわ」 「……!」  驚いた氷室は、思わず急ブレーキをかけた。  ガクンと車体が揺れて、車は横に滑ったけれどその先に人や車はいなかった。  何事もなく止まった。 「正気か?」 「あと半年もないけど、学校は卒業しておきたいから」 「お前、分かっているのか? 今学校に行ったらどんなことになるのか。悲劇のヒロインだってチヤホヤされるとでも思っているのか?」 「そんなわけないでしょ!」    多分このときが、初めてあたしの感情を出しちゃったときだと思う。  悲劇のヒロイン? チヤホヤされる? バカバカしい。  もしそうだとしてもそんな同情はごめんよ。  しかし氷室は続ける。
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