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「お前の学校、休学届けは七ヶ月まで有効だったか?それならそれでいい。だが、客観的に言わしてもらえば、好奇の目で見られるのは間違いねえ。中退するのが最良だ」
中退ですって?冗談じゃない。
あたしはため息混じりに切り出した。
「私の学費を、今の育ての親である父と母が払ってくれたの。自分たちだって全然っお金とかなくて、いつも借金取りの人が家に来て、日々頑張っていた父は過労で倒れた。その半年後、母も病気で倒れたわ。
でもねっ、父の生命保険のお金で借金は無くなって、母がこっそり貯め続けていたお金があたしの為に残されてた。あたしを高校に行かせてあげたいって、卒業までさせてあげたいって、先に三年分の学費を払っておいてくれたのよ。
施設で育った赤の他人のあたしの為に、そんな大きなお金を使わなければ、父も母も死なずにすんだかもしれない。
父だって過労で倒れることは無かったし、母だってもっと大きな病院に移ってちゃんとした手術も受けられた。
だから…」
無意識にタバコに手を伸ばしていた氷室は、手を止めて、その手をハンドルに持っていった。
「そうか。まあ俺には元々、止める権利も権限もないが…なら、一つだけいいか?」
「何? この話を含めて記事にするつもり?」
「違う。お前の送迎は俺がさせてもらう。マスコミもさすがに校舎の中までは踏み込んでこれやしねえから、狙うのは帰り道だろう。だから俺が迎えに行く。学校は何時に終わるんだ?」
「四時」
「遅くなりそうなときは連絡入れろよ…って、ケータイはねえのか」
「うん」
大破した携帯なら引き取ってきたけれど、どう修理しても使えそうになかった。
けど、その携帯を手放すことはできなかった。
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