始まった2人の生活

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「これを使え。仕事の関係上、いくつか持っているんだがな、そりゃ予備だ」  差し出されたのは古い型の携帯電話だった。 「俺の番号は名前で入ってる」 「…そう。ありがと」 「気をつけろよ」 「…大丈夫よ。もし何か聞かれても、答えることなんてないわ」 「そっちじゃねえよ。 興味本位で群れてくるのはマスコミだけじゃねえ。学校で一番身近な生徒たちだ」  もう一回タバコに手を伸ばした氷室は、それを握り潰してゴミ箱に捨てた。  あたしは車内のミラーに写る自分の顔を見て、改めて実感した。  包帯でぐるぐる巻きにされた顔の隙間から覗く目に、我ながらゾッとした。  風が強く吹いてきた――  葉の揺れる音が耳に届き、もう平穏な日常は訪れないのだと実感した。
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