746人が本棚に入れています
本棚に追加
「これを使え。仕事の関係上、いくつか持っているんだがな、そりゃ予備だ」
差し出されたのは古い型の携帯電話だった。
「俺の番号は名前で入ってる」
「…そう。ありがと」
「気をつけろよ」
「…大丈夫よ。もし何か聞かれても、答えることなんてないわ」
「そっちじゃねえよ。
興味本位で群れてくるのはマスコミだけじゃねえ。学校で一番身近な生徒たちだ」
もう一回タバコに手を伸ばした氷室は、それを握り潰してゴミ箱に捨てた。
あたしは車内のミラーに写る自分の顔を見て、改めて実感した。
包帯でぐるぐる巻きにされた顔の隙間から覗く目に、我ながらゾッとした。
風が強く吹いてきた――
葉の揺れる音が耳に届き、もう平穏な日常は訪れないのだと実感した。
最初のコメントを投稿しよう!