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「なぁに、桂よ、いざとなったらおめぇの得意な“逃げ”でどうにでもなるだろうさ。なぁ」
そうだろう?と意地の悪い笑みを浮かべ、男は隣の連れをちらりと見遣った。
袴の男は桂と言うらしい。
「はは、そうさねぇ。
ついでに私達もひっぱって行ってくれたら助かるなぁ。ねぇ、晋作」
稔麿も笑みを含んだ声で言う。
変わった服装の男の名前は晋作という。
二人が、いや晋作が軽口立って、桂のことをからかうのは、すでに常であった。
小犬のようにキャンキャンと喚くのがまた愉快だ、と言う晋作に特に悪気があるわけでもなく、稔麿は兄弟みたいだと愉快に思っていた。
「「………」」
しかし二人の思惑とは余所に本人から何の声もない。
「桂くん?」
──もしや、ついに本気で
怒らせてしまったか……?
不安に思った稔麿が後ろを振り返ると、十数歩ほど離れたところで後ろを向いたまま立ち尽くす桂の姿があった。
「おい!!」
びりりとした晋作の声に、桂と共に稔麿も肩を震わせてしまう。
「何してんだお前?ぼーっとしてんなら置いて行くぞ!」
「あ、ああ。すまない」
ぼーっとしていた桂もはっとしたように振り返り、返事をすると小走りで駆けてきた。
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