序章

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「お前、何見てたんだよ?」 戻ってきた桂に腕組みをした晋作が問い掛ける。 「あー……、いや……、 すれ違った……人?」 「はぁ、人?女か?」 なぜか曖昧に答える桂を不審に思いながらも、晋作は組んでいた腕を解いて、片手を腰にまた片手を目の上に添えて目を細める。 稔麿はそろりと桂の隣によって声を掛けた。 「可愛らしかったのかい?」 「いや、まぁ……うん」 ──珍しいな。 自分のした質問に対して照れ臭そうに言う桂に、ほぅ、と稔麿は髭を蓄えていないあごをゆるゆるとさすった。 「あー、あれかぁ。 はて、いつすれ違ったか?」 「君らが私の事をばかにして、話に花を咲かせてた時だよ、晋作」 拗ねたような口調で桂が言う。 そらぁ気がつかねぇわ、と晋作は心の中で呟きながら、細めて遠くを見つめている目を一瞬だけ桂に向け、にやりと笑う。 「……しっかしなぁ」 そのまま少し眺めたあと、下ろした手を腰に添えて桂と稔麿の方へ向き直る。 「ありゃあ男じゃねーか。長くて変な髪型だし、着物だってえらくぼろぼろだが明らかに男もんだぜぇ?」 「……え!?」 桂が見とれていたものを可愛らしい娘だと思い込んでいた稔麿が、目を真ん丸にして桂を見遣る。 桂の顔が真っ赤になる。 その様子を見て、晋作の顔がこの上ないほどニヤニヤと楽しげに歪んだ。 .
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