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「そうだね。それ以前に不審者に思われちゃ、私たちもここで動きづらくなってしまうよ」
早く帰ろうか、と晋作に続き稔麿も桂を出来るだけなだめるよう、にっこりと笑い、落ち着いた口調で声をかける。
「あ、あぁ悪かった。
大声を上げてしまって」
「いいよ、悪いのは晋作だ」
前を歩きだした自分の後ろ姿に素直に謝る桂に、稔麿は振り向きはしないものの、そのままの優しい笑顔で言った。
それに憤慨の声をあげたのはもちろん晋作だった。
「なんだよ!
俺がわりぃってのかよ!」
「ほうら。うるさいよ、晋作」
「なっ……!」
ピシャリと稔麿が諌める。
そうはしても稔麿の顔はひそかに喜色を浮かべている。
稔麿にとって二人は弟だ。
手間のかかる悪ガキの次男と、素直だけど少し神経質な三男、まとめ役の自分は長男なのだ。
「……なぁに、笑ってんだよ?」
「ん?何でもないよ」
拗ねた口調ながらも、上目に隣の自分を覗き込んで聞く晋作を、稔麿は可笑しく思った。
なんだかんだで二人は可愛いし、何より三人でいるのは楽しい。
だからどんなに言い争いになっても、晋作や桂が拗ねてしまったとしても、自然と口元が緩んでしまうのも、仕方ないと思った。
「なぁ、桂」
「む?なんだ?」
そして、やっと黙って歩きはじめていた三人の沈黙を破ったのは、やはり次男こと晋作であった。
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