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「お前さぁ……」
あっ、と稔麿は思う。
隣の友人が前を向いたまま薄く笑うのを稔麿は見逃さなかった。
「頼むから、どこぞで念友なぞ作ってくれるなよ」
「なぁっ!?ぐっ、ごほっ!」
晋作は顔だけを後ろに向けて、桂に言う。
桂も何か言おうとするが“念友”という言葉に衝撃を受けたのか、むせて声が出なかった。
「晋作、お前も懲りないなぁ」
稔麿は苦笑いで肩をすくめた。
「うるっせぇや。
桂ぁ。今度、俺が色街に連れてってやるからなぁ」
「げほっ、く……、い、要らんわ!
私は念友なぞ作らぬし、連れてって貰わんで結構だっ!」
それだけ言うと、ずっと後ろに付いていた桂が息を弾ませ、ずんずんと大股で晋作と稔麿を抜いて行ってしまった。
「ほーら、また怒らせる」
「はは、行っちまったなぁ。
俺、脇差ししか持ってないのに」
「困ったねぇ、私は丸腰だよ」
さして困ってなさそうな口調で話しながら、どんどん前を行く桂の背中をみる。
すると数丈ほど先まで進んでいた桂がぴたりと止まって後ろを振り返った。
「何をやってるんだ!
置いていかれたいのか!?」
「「……は?」」
「は?、じゃない!
私しかまともな装備をしていないのに、なぜ付いてこないんだ!」
ものすごく憤慨したような口調で言い出す桂に稔麿はキョトンとする。
晋作は頭をがしがしと掻きながら苦笑いをした。
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