3125人が本棚に入れています
本棚に追加
/325ページ
「大体、まだ五月で寒いというのになんでそんなに薄着なんだ?
そんな格好で長く外にいたらば、風邪を引いてしまうだろう!」
早く付いて来い!と桂は捨て台詞のように言い放つと先程よりも、ゆっくりな歩調で歩き出した。
桂の言葉に晋作までもが髪を掻き回していた手を止めて、キョトンとした顔になる。
「……なぁ、稔麿。今のって」
「うーん。きっと晋作が考えてる通りじゃないかねぇ」
二人は顔を見合わせる。
お互いの目元がだらし無くさがっているのがすぐわかる。
「「……っく、はははははっ!」」
急に笑い出す晋作と稔麿に、今度は桂が驚く番だった。
「なっ、何笑ってるんだ?」
「ははっ、いんやぁ俺達って愛されてるなぁって。な、稔麿」
「ふふ、そうだねぇ」
二人は、驚いて足が止まった桂のところまでつくと、晋作は桂の肩に腕を廻し、稔麿は晋作とは反対側にまわる。
そして三人組は横一列に並ぶと、楽しげな声を残して黄昏の京の薄闇の中へ溶けていった。
この三人の男、名をそれぞれ
吉田稔麿(ヨシダトシマロ)
高杉晋作(タカスギシンサク)
桂小五郎(カツラコゴロウ)
尊攘倒幕派の要人として、名を馳せる、長州潘の志士であった。
.
最初のコメントを投稿しよう!