6月の烏

2/3
前へ
/20ページ
次へ
例えば、エンピツよりも消しゴムが好きだ。 それも、消しカスがまとまるタイプじゃない。 糸屑みたいなカス。 安いレースみたいなカス。 そんな、個性豊かで掃除しにくいカスを盛大に撒き散らす、消しゴムが好きだ。 それに、そいつに消されていく言葉が好きだ。 選び損ねてしまった言葉たちが、たまらなく愛おしい。 (悪いね、ここは君の出番じゃなかったよ) (また次、頼むね) つぶやいて、微笑んで、容赦なく消す。 その感触が好きだ。 消している、ということは、 書いていた、ということで。 何かを書いていた時の自分が好きだ。 残す言葉、残さぬ言葉。 そんなことは先に譲って、ひたすら書き続けていた、自分が。 そうだ! 消しもせず、書きもせず、漫然とエンピツを弾くだけの自分など失せてしまえ! …書かなければ。 消すためにも書くのだと思えば、もっともっと書かねばならぬはずだ。 消しカスを……盛大に、撒き散らして。 『始まりに代えて』   09/06/22
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加