1人が本棚に入れています
本棚に追加
その人は、暗闇でもよく分かる、真っ白なワイシャツにズボン、それに片っ方が脱げてしまっていましたが、ずいぶんきれいなスニーカーを履いてました。
これも、シャツやズボンと同様真っ白な色で、何だか不思議な感じがしました。
私はその人に声をかけるべきか迷ってました。
何というか、決して見た目が怖いとか(全身真っ白な服装の人物が怖いというならおそらく怖い人物なのでしょうが)そういうわけではないのですが、ただ……
地面で大声を出して暴れている人に、声――かけられますか?
さんざ迷ってその人を見ていたらその人は私の視線に気付いたのか私の方を見て動きを止めました。
そのまますっと私と視線を合わせました。
多少土で汚れていましたが、その人の髪はひどく美しい銀髪でした。
月明かりに照らされて、それはなんだか艶めかしい、とかいう普段絶対に使わないだろう形容詞が瞬時に思いつくほど美しかったと覚えています。
瞳の色はその時はあまりよく見えませんでしたが、今の彼の目は灰色がかった黒です。
ところで、その時いきなり見つめられた私はなぜか心臓がとても強く鼓動し、色々と聞きたいことがあったはずなのに、何も言えなくなってしまいました。
するとその人が先に私に声をかけました。
「…………人間?」
すみません、残念ながらギャグになりませんでした。
生まれてこの方ヒトという種族を疑われたことはありませんでしたから。
「……は?」
その人の質問もとても失礼でしたが、私自身の返答もとても失礼なものだったと思います。
でも開口一番が……人間?はないでしょう。
なんですか、アマゾンで猿にでも囲まれて暮らしたんですか、はたまた天国で天使にでも囲まれていたんですか。
それから私もその人も話さない、いわゆる沈黙が流れたので、とりあえず私は人間ですよ、と答えると、その人は急にばっと起き上がり私の手を握ってきました。
最初のコメントを投稿しよう!