御厨家の人々 (翠婦人の長い長い愚痴)

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約束の時間を三分程過ぎてから、健吾に連れられた、綺麗な女性が『喫茶店 トイ・クッキー』の店内へ入ってきた。 一目で解る程のお金持ちの奥様が、汚いTシャツに、七部丈のズボンを履いた少年と並んで歩く姿はかなり異様な光景だった。 綺麗なツヤのあるストレートの髪が、肩の上でカールしている。 鼻筋の通った美しい顔立ち。 僕たち庶民にはわからないけど、高いブランドの洋服を来ている。 喫茶店どころか、この辺りにはこの人の馴染む場所はなさそうだ。 ただ、服の色は喪服さながら真っ黒で統一されていて、夫の死を悼み、憂いを身に纏っているかのようだ。 僕たちは、安物の黒いスーツに包んだ身体を立ち上がらせて、二人に所在を知らせた。
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