御厨家の人々 (翠婦人の長い長い愚痴)

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翠婦人が持つ藤川直素の印象は、御厨直正と比べ、かなりの差があるようだ。 「直素さんは主人の実子ですが、頑に養子入りを拒んだ為、お母様のサクラさんと同じ藤川性を名乗っています」 テーブルの上で、良太郎のアイスコーヒーの氷が、コロンと音立てて沈んだ。 翠婦人は話を一旦中断してアイスコーヒーのグラスを見つめた。 僕たちは頷きながら、無言で翠婦人の話しを促した。 「主人のコネで御厨ファイナンスの社長になりましたが、事業に熱心ではありませんから、本社の人間は決して良く思っておりません。 サクラさんとも離れ、今は一人暮らしをしているようです。 決して悪い人ではないのですが、直素さんが何を考えているのやらわかりません」 翠婦人は今度は少し優しい顔になって言葉を続けた。 「ただ直素さんは話したがりませんが、大変お母様想いの方で、毎月サクラさんに仕送りをされているようです。 正直な所、直素さんについてお話出来る事はそれほどないんです」
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