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その男は静かに簡易ベッドに横たわり、医者の到着を待っていた。
現在、時刻は二十時四十一分。男は、三時間もの間、文句の一つも言わず待っていた。
それは、その男にとって極めて異例の事態であった。否、初めての事だろう。
男はせっかちなのだ。待つのが大嫌いで、カップ麺さえ、硬いまましか食べた記憶がない。では、何故男は長い間黙って待っていたのか?
男は今、息ができない。それどころか、男の心臓は止まってしまっていた。男の顔は白い布が被せてある。
男は今、事実上死体と呼ばれる、タンパク質と、カルシウムと、その他から構成される肉の塊であるはずだった。待っているのはもっともだろう。
警察に依頼された監察医は直ちに解剖を始めたい。しかし始められない理由があった。
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