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ずっと雨が降っている。
今日で三日目だ。
雨のせいで野良仕事が遅れた。
また収穫が少ないかもしれない。
食べる物がなくなってしまうかもしれない。
背中におぶった年の離れた妹は大きな声で泣いている。
この子も腹を空かしているんだろう。
雨風をやっと凌げるだけの小さな家。
父ちゃんは縄を編み、母ちゃんは他の兄弟の面倒を見ている。
暗い家の中。
小さな村の貧しい家。
7人兄弟に父ちゃんと母ちゃん、毎日食うや食わず。
きっと村の誰かのところに嫁に行き、子を産み、また同じ毎日だ。
でも去年の秋に見た姉ちゃんの花嫁衣装は綺麗だった。
生まれて初めて赤飯も食べた。
あたしもいつかあんな綺麗な格好をしてみたい。
ふと雨の音が止んだ。
土間から外を覗くと日が差している。
「父ちゃん、あたし畑に行ってくるよ」
背中の妹をあやしながらあたしは外に出た。
村の外れの田んぼに着くと辺りには荒れた様子もなく、ほっとした。
村でもうちは貧しい方だ。
一番端の狭い田でもうちにとっては大事な財産だった。
水鏡に青空が映る。
「…綺麗。」
独り言を言った時だった。
林の奥の草がガサガサと揺れ、馬が飛び出してきた。
あたしの存在感には気づかないのか、目にも止まらぬ速さでこちらに駆けてくる。
ぶつかる。
そう思ったが身がすくんで避けられない。
眼を瞑る。
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