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あたしはぬかるむ畦道を気にせず、土に額を付けた。
そうでなくても元からあたしは泥だらけだ。
「お侍様とは知らずご無礼を。どうか命だけは。」
それだけ言うのがやっとだった。
あたしの思っていることが伝わったのか妹は背中で泣いている。
罵声が飛んでくるかと思っていた。その予想に反して降って来たのは笑い声だった。
「娘、顔を上げろ」
あたしは言われた通り顔を上げたが、雨上がりの太陽が侍の背にあって上手く顔が見えない。
「どうか命だけは。」
あたしは繰り返した。
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