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「顔が泥だらけだ。女は自分の身なりに気を使うものだ」
そういうと侍は手拭いを出しあたしの顔を拭いた。
その時、あたしは初めて侍の顔をはっきりと見た。
あたしが今まで見た侍よりも随分と若い。
まだ二十くらいだろうか。
そしてもっと驚いたのは片眼が黒い眼帯で覆われていたことだった。
「お侍様、お怪我を?」
「ああ、これか」
侍はその眼を差して言う。「ずっと幼き頃の傷だ。もうふさがっている。」
そう笑い飛ばした。
あるはずのものがないのにその笑顔をあたしは美しいと思った。
村の者とは違う垢抜けた顔をしている。
けれどあたしはまだ心配そうな顔をしていたのだろう。
初めて会ったばかりの男はあたしの心をみているかのような言葉をかける。
「心配するな。幼い頃、美味そうだったので食べてしまった。それだけだ。」
本当にそんな話があるのだろうか。
多分冗談だろうと思った。
綺麗な笑みを浮かべる顔を見てあたしの不安は飛んでしまった。
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