心臓

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あの盃が畳の上に落ちてからの数日間、ずっと考えていた。 離縁されることを。 しかしあたしが村に帰ったならば。 あたしの家族は皆、村人から後ろ指を指され暮らしてゆかなければならないだろう。 そんなこと、あたしにはどうしても出来なかった。 ほかの場所で生きてゆこうとしても、あたしを守るものは何もない。 襲われる。 身売りをされる。 命を奪われる。 きっと荒れ野に晒される骨となるのがあたしの最期だ。 この城を出てゆくならそこには辛く惨い死しかないのだと。
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