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「お前、泥を拭えばなかなか美しい顔をしている。」
心臓がどきりと鳴った。
あたしは今までそんなことを誰からも言われたことはなかった。
顔が赤くなるのがわかる。男は笑みを深くした。
「娘、名は?」
「春と申します」
「そうか、良い名だ。祝言はもう上げたのか?」
侍は突然あたしに意外なことを訊く。
顔はあの笑みのままだ。
「いいえ。まだです。何故あたしにそんなことを訊くのですか?」
「ならば俺のところに嫁に来い」
あたしは驚いて口を開けたまま、ただ男の顔を見るしか出来ない。
この侍とあたしはたった今会ったばかりだ。
「あたしを百姓の娘だとからかっていらっしゃるのですか?いくら田舎者でもそれくらいからかいとわかります。」
言ってから無礼だったと後悔した。
今度こそ斬られるかもしれない。
体が強張るのがわかる。
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