心臓

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「よいのです。私は化粧をするのが好きなだけですから。どうぞそのままで。」 そう言われてしまえば、あたしはただそこに座しているしかない。 美しい手は滑らかに動いてあたしの肌をなぞってゆく。 「やはりお美しいお顔立ちをしていらっしゃいますね」 そう言われた。 一瞬自分が姫に対して言っているのかと思った。 けれどその言葉を言われているのはあたしで幻でも見ているような気になる。 「いえ、あたしは日に焼けて肌も黒くて、いつも泥だらけで、美しいなんてお言葉をいただいても、どうしたらよいか」 「大丈夫。泥がつくような場所はこの城にはありません。そしてあと一年もこの城にいれば肌など元の白にもどりましょう。」 あと一年この城にいる。 その言葉があたしの心を締め付けた。 明日にでも追い出されるかもしれないのだから。
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