深い森

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腰までのびた草をかきわけながら私達は白川さんの後をついて、森の中を歩いていた。 前を歩く白川さんは初老とは思えないほど、しっかりとした足どりで歩いていく。 歩くたびにチリンチリンと熊よけの鈴がなる。念のためと、白川さんは猟銃を持ってきていたが、鈴があるとなお安心する。 不意に白川さんが歩くのをやめ、下を見て言った。 「ここです。私が定男君を見たのはここです」 香野は地面を調べはじめた。親指で地面をなぞり、その指の臭いをかいだ。 「ここに誰かがいたのは確かですね。いやいや雨が降らなくてよかった」 香野がそう言った。私は香野に何がわかったのか?とたずねると、地面の臭いをかぐように言われた。 「みそ汁の臭いがしますね」 私がそう言うと、香野が続けて言った。 「ここで誰かがものを食べてたんでしょう。そして治郎さんの声で慌てて逃げるときにみそ汁をこぼした。 雨がふってしまったら臭いはわからなかった。私達は運がいいですね」
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