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白川さんはお茶を口にしてから続きを話した。
「私達は後藤さんの家にあげてもらいました。家の中にはすでに村で唯一のお医者さんの村上さんがいました。
村上さんは冷たく動かなくなった定男君の隣にすわり言ったのです。ごりんじゅうです、と。
私はいきなりの事で涙はでませんでしたが、集まった人の中からは、啜り泣く声が聞こえました。
村上さんは定男君の顔に白い布をそっとかけました。それを合図にしたように村人は誰一人喋る事なく悲しみの中で帰路についたのです。
翌日には葬儀がおこなわれ、定男君の妻の茜さんの悲しみの涙に誰もが心をうたれました。
それから3年がたち、一昨日の事です。
私達の村は山奥にありますので、熊などがまれに現れるのです。ですから私と治郎は銃を持ち山に入り、熊などの危険な動物が村に近づかないように歩いて回る事があるのです。
一昨日も治郎と二人で山に入りました。効率よく山を回るには二人で別々に歩くのがいいので治郎は私とは逆の方へと歩いていきました。
山をずんずんと歩いていると、遠くで何かが動いたのです。私は熊が何かだと思い銃を構えて狙いをさだめました。ですがよくよく見ると動く何かは人のようなのです。山には熊がでるので村人はあまり近づかないのに、人がいるのはおかしい。
私は怪しい人に気配をころして近付いていきました」
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