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白川さんはなおも話しを続けた。
「私は熊除けのための鈴を腰につけていたので、鈴を手で覆い隠して音がならないようにして、なおも近付いていきました。
近付くにつれて、怪しい人は男だとわかりました。そして、よくよく目をこらして見ると男は3年前に亡くなったはずの定男君だったのです。
私は驚きました。定男は夢中になって何かを食べていました。
私はキツネかタヌキに化かされているのかと思いましたよ。もしくは幽霊か何かかと。
ですが、よく見てみると、定男君が夢中になって食べていたのは茶碗に入ったご飯にみそ汁、それに焼き魚だったのです。そしてちゃんと箸を使って食べていたのです。
キツネやタヌキが箸を使うとは思えないし、幽霊だったらご飯を食べますか?
私が見ているのは生きている定男君だと確信しました。ですが同時に恐ろしかった。
私はゆっくりとさとずさしをはじめたのです。よく状況を理解できないうちに定男君に声をかけるのは危ないと思ったから、逃げる事にしたのですよ。
ある程度、定男君と距離が離れたときに、遠くから、お~い、と治郎の声がしたのです。私はとっさに伏せて隠れました。すると定男君の走る足音が聞こえました。足音が聞こえなくなった頃に治郎が私の所まで来ました。
私は今体験した事を治郎になんと話せばいいかわからず、というか話してはいけないきがして、定男君の事は話さなかったのです」
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