プロローグ

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 その行為に意味などありません。  その行為に理由などありません。  その行為に動機などありません。  意味や、理由や、動機は、その時に見つけます。 「………………っ!」  箱を拾い上げた時に走った衝撃で、私は体を硬直させて箱を落としてしまいます。箱は足下に接触して、砂上を少し転がっていきました。  しかし、そんなことは些事。  私が受けた衝撃――――心を満たしていく何かに身を悶えさせながら、快楽のひと時を得た私にとって、箱を落とした事などどうでもよかった。  思考は停止。活動は不能。それでも、衝動に身を任せ、快楽に溺れること以外に必要性を感じなかったのです。  その悶えが次第に治まり、落ち着いた時には私は変わっていました。  心の空虚部分に、箱を通して何かを手に入れられたのです。  私の行動理念に、箱を探す事が芽生えた瞬間でした。  箱の中身は、……世界です。  何もないこことは全く違う、たくさんの何かにあふれている世界。  それに触れられれば、世界は新たな快楽を与えてくれる。与えられた快楽は、新たな感情を与えてくれる。  世界に触れていく度に、芽生えていく何かが私を構成していき。目覚めたばかりの余分なものが無かった時とは違う、今の私が確かにありました。
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