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玄関にある古時計が十八回打った。
時計の中に住んでいる小さなコウモリが、さかさまにぶらさがったまま、うるさそうに顔をしかめてトレイシーを見ていた。
トレイシーの姓はロジャーだ。
ロジャー家はすこし見たかんじでは全くふつうのように見えるが、注意深く見るとおかしなことが沢山ある。
この家の住人も見た目とはずいぶん違う。
絶対に普通じゃない。
トレイシーは五歳の頃、あだ名で呼ばないようにとみんなに言ったことがある。
そんなトレイシーもあと六日で十二歳になる。
トレイシーは背が高くやせている。
顔も小さく、体も細い。
髪の毛も細い。
赤い髪の毛はうしろは肩のところまでまっすぐにそろえられているが、前髪は揺れるといつも目の中に入りそうになる。
トレイシーは前髪を息ではねのけながら、抱えていた本を青いテーブルの上に置いてジャケットをぬいだ。
すぐに白と茶の色がまざった猫がかけよってきた。
そして青いテーブルに飛び上がったひょうしに町の図書館で借りてきたばかりの本を床に落とした。
「モースったら!」
しかられても猫は全くおじげづくふうもなく、トレイシーのひじに頭をこすりつけはじめた。
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