第一章【紅炎との出会い】

12/20
前へ
/230ページ
次へ
 古狸は今にも死んでしまいそうな悲鳴をあげる。 「俺をなめるな――狸よ。狐にお前が未だにアリオンと内通している事、全て聞いているのだぞ?」  フッと不敵な笑みを浮かべる緋色の手の中で狸は怒り狂った。 【くそっ!!あの馬鹿狐めがっ……次会うた時は尾を喰いちぎってくれるわっ!!!!】  本性をあらわにした古狸は、そう叫んだ直後“しまった!!”という顔で恐る恐る緋色に視線を向ける。真正面から瞳がぶつかる。緋色は不敵な笑みを浮かべたまま古狸にもう一度尋ねた。 「奴の居場所を吐け。これがお前がこの世で聞く最後の言葉になる前にな」  ナイフを更に突き付けられ古狸は観念した様子でため息をついた。 【アプリ地方の古兎(コト)という町にいるかと……わしが知っているのはそれだけだ】  緋色はその言葉を聞くとナイフを懐へしまい、狸を解放した。 「俺の気が変わらぬ内に、どこへなりと行け。そしてもう二度と悪さはするな」  古狸は地面を転げまわりながら一目散に森の奥へと走り、やがて深い闇に溶け込むかのように姿を消した。
/230ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1388人が本棚に入れています
本棚に追加