第二章【三巴炎と水獣の村】

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 その甲高い声に僕の声は掻き消された。さらに僕を押し退け緋色に駆け寄るといきなり抱きついたのだ。  ……え?  僕の身体は傾き、尻から地面へと倒れこむ。 「お会いしたかったです。お元気でしたか?」  ぎゅうっと緋色の胸元に腕をまわし、頬を染め目を細め口元を緩ませ満面の笑みを緋色へと向ける。獣耳をピンと立て、裾から覗く尻尾がパタパタと左右に激しく揺れていた。 「ああ……“イチ”もあいかわらず元気そうだな」  緋色は自分に抱きつくそのイチと言う名の悪魔の黄金の髪へと、自分の細く長い美しい指を差し入れ頭を撫でた。そして優しい笑みを浮かべる。あのいつも無表情の緋色が頬を綻ばせ笑ったのだ。  いったい……何者だ?こいつ――  驚いて倒れたまま僕は、唖然とその美しい二人を見比べる。 「はい!!お師匠様の顔見たらさらに元気になっちゃいました」 「そうか……そいつは何よりだ。イチ、俺達がここに来るのを知っていたな?」  イチは、先刻の僕と話していた時とは別人のように緋色に優しく話し掛ける。男なのか女なのか区別のつかない中性的な容姿のイチは照れながら、上目使いに緋色を見上げた。
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