間章【惨劇の町・古兎】

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 今から一ヵ月程前、アプリ地方国を治めるアリューゼム国王を含め、王族の血縁関係者総てが暗殺されるという事件が起きた。犯人は未だ捕まらず――次の王位継承権を巡り、王の家臣・側近等、王直属の部下達は争い、その火種は国中を巻き込み内戦が勃発。結果、多くの国民が戦の為に食糧難に陥り、飢えと寒さの為に死ぬ者が後を絶たなかった。 「寒い……お腹すいたよ…」  泣き叫ぶ子供達。路地裏の影にぼろ布のように横たわるもの――それは人間だった。皆、一様に顔は蒼白く、乾いた唇は紫色。手足や頬は痩せこけて、子供の腹は風船のように膨れ上がっていた。辺りには蝿が群がり、烏が飛び交う。そこは常に死の影に怯える者達で溢れていた。 「お願い……た、たべもの。何でもいい……たべ、ものちょ、だい」  貿易が盛んな都町【古兎】。ここにも戦の火は及び貧富の差は目に見えて増すばかりだった。町の表通りでは、多くの店屋が建ち並び活気づいている。武器屋や果物屋が主であり、平民などでは買えない値段の商品が棚に並べられていた。だが、ひとたび路地裏に入れば、ここが同じ町の中だとは思えない別世界が広がっている。
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