間章【惨劇の町・古兎】

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「たすけ、て。殺される!!お金はいくらでも払うわ。だから……」  涙を流しながら必死で命を乞う女性の腕を持ち上げ、少女はいともたやすくその腕を引きちぎった。声にならない叫びをあげながら女性はばた狂う。 「私の邪魔しないで……目障りだわ」  氷のように冷たい瞳で、その女性を見下ろす。そして、手を高く天にかざし呪文を唱えた。 《トライゼム・デュル・オルク!!!!》  噴水の周りを取り囲むように生えた木々がざわめき、  ビュッ!!  と無数の枝が伸びて、その女性の身体を貫く。 「ぎゃっ!!」  小さな悲鳴をあげ、それがその女性の最後の言葉となる。枝はシュルシュルと元の姿に戻り、女性の身体は一瞬宙に浮き身体中から血を流しながら息絶えた。少女は何事もなかったかのように踊りを再開する。人々の断末魔の叫びに合わせて、楽しそうに踊った。やがて、噴水の水がワインのように真っ赤に染まった時、  パチパチパチ――  手を叩く乾いた音が少女の耳に届く。気がつくと少女の眼前に一人の男性が立っていた。黒いシルクハットと同じく黒いマント。白い髪は背中まで流れ、がっしりとした身体付きの背の高い男。
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