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『それはできない。お前は水獣族の長の子だろう?この村から離れるな。この村を護れ。それに……お前がいても役には立たない。』
冷ややかな瞳を一期に向ける。厳しい言葉を受けた一期は愕然とし顔を両手で覆って泣きながら走り去って行く。闇の中へと消えていく一期を見つめ柘榴はため息をついた。
『一期の事なら平気じゃ。緋色殿にもお考えがあっての事…賢い子じゃから理解するじゃろうて。お客人の前で失礼したのぅ。さぁ、我が屋敷にてゆっくり身体を休めてくだされ。』
柘榴は立ち上がると、僕達の前で頭を下げ村で一番大きな屋敷へと案内してくれる。無数に増殖した瞳はいつのまにか元通り双つの眼に戻っていた。僕は屋敷へと向かう間、落胆した表情で泣く一期が気になっていた。もし、僕の勘が正しければ――
“あんな性格の悪いやつ…心配なんてしてない。ただ、どうしても気にかかる”
「ごめん、お師さん。僕、あいつの様子見てくる。」
緋色が頷くと同時に僕は踵を返し、村の中に消えた一期の後を追った。
『うっ……ひっく。』
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