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彼女が新たな人生を歩み出したある日、彼、草薙渉がバイト先に現れた。
それは偶然なのか運命なのか。
運良くこの日は一人で仕事を任されていて、その上、客もあまりいないときた。
彼は奈美に気付くと笑顔でカウンター席に座った。
「ここでバイトしてるんだ。」
「うん。」
「良かった。心配だったよ。連絡先を交換しなかったから電話もできなかったし。」
彼はそう言って煙草に火をつけた。
「何にします?」
「ん、あぁ、ウイスキー、ロックで。」
奈美がグラスを渡すと草薙はそれを一口で飲み干した。
「お酒は強いほうですか。」
「そんなに強いわけじゃないけど好きなんだ、こうして飲むのが。」
彼はそう言って長い指をグラスに絡ませた。
二時間は話していただろうか。
いつのまにか閉店の時間になっていることに気付いた。
一緒に帰ろう、と彼が言ったので店を閉める間、外で待っていてもらった。
「お待たせしました。」
二人は横に並んで街灯に照らされた道を歩く。
「君が元気で良かったよ。」
草薙が言った。
「なんでだろう?生きてて良かったって思う。」
彼女は小さな口から舌を見せた。
「それでいいんだ。理由がわからなくたって、生きてりゃ良いことあるからさ。」
彼はそう言って夜空を見上げた。
奈美も同じように暗闇を見つめた。
あの日とは違う。
その先に光が見える。
希望の光。 幸せの光。
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