第7章『実力と疑惑』

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目の前にはルーカスの姿は無く、数十を超える小さな光の法術陣が輝いており、次の瞬間には法術陣から幾重も重なり、巨大な拳となった光の鎖が《ディル・スティグマ》を打ち抜こうと迫る。 「『光鎖鉄拳(コウサテッケン)』…やはりこの程度では無理ですか…」 いつの間にか《ディル・スティグマ》の背後十数メートルの地点に立っていたハイネは傍らに先ほどまで担いでいた、驚愕の表情のまま動かないルーカスを下ろし、バラバラに斬り裂かれた『光鎖鉄拳』を見て小さく呟く。 「重複魔法…」 ルーカスは目の前で行われた法術を見、自らの眼を疑った。 重複魔法とは、幾つもの魔術、または法術を同時に発動し、力を高める魔法であり、幾つもの魔術、法術を同時発動する為、難易度は上級魔法並と言われているものだ。 それを横にいる少年は詠唱破棄どころか魔術、法術名すら破棄した無詠唱で、完璧に操って見せたのだ。 「ウソだろ…!」 驚いたのは当然ルーカスだけではなく、観客席にいるラルフ達も驚嘆の声を洩らしていた。 「重複魔法を…無詠唱なんて…」 「やはりただ者じゃなかった…」 ニル、ミーシャも格の違いを見せつけるように発動された重複魔法に、ハイネに対する疑問がさらに募っていた。 「こんな法術…紙以下だ…」 《ディル・スティグマ》は忌々しげに呟くとハイネに向かって先ほどの倍近いスピードで接近し、剣と成っている腕を振り抜こうと腕を引いた瞬間白桜の切っ先がその肩を貫き、動きを中断される。 「キ…キサ…マ…ぐぅ…!?」 ハイネは無言で何かを言おうとした《ディル・スティグマ》のこめかみに当たる部分を蹴り、吹き飛ばす…ここまでの動作は約2秒に満たず、ルーカスは目で追うのがやっとのことだった。
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