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ーー甘かった…
幾ら自分が猛ろうとも、存在する絶対的な差が埋まることはない。
ならどうすればいいか。
血に染まった制服を一瞥してからルーカスは立ち上がる。
「そんなことは…決まっている…」
『まダ立つか…』
その身に受けた傷の数は優に二桁を超え、大小様々な傷はルーカスを鈍い痛みによって現実にしがみつかせている。
『…キサマに勝ち目は無いト…なゼ気づかナい!』
槍へと変化した《ディル・スティグマ》の右腕がルーカスの体を抉り、ルーカスは体制を崩す。
ーー勝てないなら
「足掻けばいい」
紅い雷が水のように滑らかになり、剣の形を象り、ルーカスはそれを杖代わりにして立ち上がる。
そして震える腕で紅い剣を構え、《ディル・スティグマ》を睨む。
『Rotes Wasser《紅き水》』
それはルーカスがバルクの形態変化『纏災形態』を発動した後、朦朧とする意識の中発動した彼特有の魔術。
紅き聖痕の『拒絶』の力を内包したソレはあらゆる魔術、法術を弾き、拒絶する。
絶対の矛にも盾にもなるこの矛盾こそが《ディル・スティグマ》が数ある聖痕の中で最強の力と言われる所以であった。
「足掻いてやる」
それは言霊。
世界と自身を繋げ、神秘を発動させるための言葉。
《詠唱》とはかけ離れたただの言葉ですらルーカスの血だらけの体を支え、なくなりかけた握力を取り戻させ、瞳に光が戻る。
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