第7章『実力と疑惑』

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ーーーー ーー甘かった… 幾ら自分が猛ろうとも、存在する絶対的な差が埋まることはない。 ならどうすればいいか。 血に染まった制服を一瞥してからルーカスは立ち上がる。 「そんなことは…決まっている…」 『まダ立つか…』 その身に受けた傷の数は優に二桁を超え、大小様々な傷はルーカスを鈍い痛みによって現実にしがみつかせている。 『…キサマに勝ち目は無いト…なゼ気づかナい!』 槍へと変化した《ディル・スティグマ》の右腕がルーカスの体を抉り、ルーカスは体制を崩す。 ーー勝てないなら 「足掻けばいい」 紅い雷が水のように滑らかになり、剣の形を象り、ルーカスはそれを杖代わりにして立ち上がる。 そして震える腕で紅い剣を構え、《ディル・スティグマ》を睨む。 『Rotes Wasser《紅き水》』 それはルーカスがバルクの形態変化『纏災形態(ディ・フェルレ・エイン)』を発動した後、朦朧とする意識の中発動した彼特有の魔術。 紅き聖痕(ディル・スティグマ)の『拒絶』の力を内包したソレはあらゆる魔術、法術を弾き、拒絶する。 絶対の矛にも盾にもなるこの矛盾こそが《ディル・スティグマ》が数ある聖痕の中で最強の力と言われる所以であった。 「足掻いてやる」 それは言霊。 世界と自身を繋げ、神秘を発動させるための言葉。 《詠唱》とはかけ離れたただの言葉ですらルーカスの血だらけの体を支え、なくなりかけた握力を取り戻させ、瞳に光が戻る。
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