第7章『実力と疑惑』

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ーー《ディル・スティグマ》は焦っていた。 と同時に自らにあまり時間が残されていないことにも気づいていた。 先ほどから幾度となく全力で攻めているにも関わらず、目の前の矮小な小僧は諦めず、遂には自分の斬撃をかわすようになってきた。 ルーカスが強くなった訳ではない。 現に自分にかけられた重力は徐々に弱まった挙げ句無くなり、傷一つ負ってはいない。 『…ッ…!?』 そう。強くなってはいない。ただ、奴が力を支配し始めただけ、と《ディル・スティグマ》は心中で呟く。 『Rotes Wasser《紅き水》』を発動した時点で既に半分以上の力を持っていかれ、ルーカスが紅き剣を振るう度に力がルーカスに流れていく。 『グ…アァアアア!!』 叫ぶ。 自らを叱咤するように叫んだ《ディル・スティグマ》は『拒絶』の力を完全に解放し、ルーカスからのパスを切断する。 気休めにしかならないこの行動も《ディル・スティグマ》にとっては重要であり、呪詛を込めたかのように憎悪に染まった一つ目は紅く輝いている。 「Ein Ziel《照準》」 ルーカスはその視線を感情を消した瞳で受け流し、紅き水を操り、数十本の剣を出現させる。 『Ein Ziel《照準》!』 対する《ディル・スティグマ》もルーカスと同数の紅き剣を出現させ 『「Vertreibung《射出》!!!」』 ほぼ同時に、互いの想いを込めた剣を放った。 .
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