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「これは…」
僅か数分という驚異的な速度でハイネが峡谷の深奥に着き、最初に目にしたのは燃え盛る炎と三桁に及ぶであろう紅狼の躯、そして未だ多くのファウストに囲まれ、息を乱しているロイと氷月の姿。そしてソレを可笑しげに眺める銀髪の男の姿であった。
「何故こんな所にファウストが…と、言いたいところですが、この魔力…ミルトフレアスですね?」
虚空に投げかけられたようなハイネの疑問に応じたのは先ほどまで数十メートル先でロイ達を眺めていた筈の男であった。
「御っ名答!なンでテメェみたいなガキが知ってんのかは知らねェが、とりあえず…」
男から殺気とともに大量の魔力が噴き出す。
「…死ンどけ」
ひゅん!という風切り音を残しながら振われた短剣は寸分の狂いなくハイネの喉元を捉えーーー
「…は?」
全力。間違いなく殺す気で、手加減など一切考えずに振った短剣はハイネの喉元を裂くどころか、皮膚すら傷つけないまま消失した。
次いで男を襲ったのは腹部への強烈な蹴撃であった。
「が…っあ…!?」
「幻影は効きませんよ」
男は目の前で微笑を称えながらも油断など微塵も感じさせない姿で自分を蹴り飛ばした足を地にゆっくりと下ろした少年を見る。
決して筋肉質とは言い難く、どちらかといえば細いといえる体躯のこの少年は、体が裂かれたという認識を叩きつけ、死に至らしめる幻影の短剣を寸分の迷いなく自らの魔力で防ぎ、身体強化を施した自分を吹き飛ばした。
幸いにもダメージは然程なく、体に傷も無かった。しかしーー
「へぇ、ヤルじゃねェか」
ーー油断大敵。
その言葉をしっかりと自らの内に刻みつけ、男は再び手に魔力を集め短剣を作り出す。
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