3362人が本棚に入れています
本棚に追加
吐き出された血が地面を紅く染め、ロイは未だ苦しげに唸っているファウストに視線を向け、震える腕を上げる。
「…風よ…我が刃と成れ『ウィンドエッジ』」
『瞬風氷葬牙』の副作用により魔力が乱れているためか、創り出されたのは本来なら数本生成されるはずの一本の風の剣。
「いけ……!!」
ロイが軽く腕を振るい、風剣を飛ばす。
ヒュン、と風を切りながら進む風剣は、先程ジークフリートで傷つけた場所に直撃するも、ファウストの注意をロイに向けるだけという最悪の結果となった。
「ここまでか……ッ」
ファウストが痛みに唸りながらもロイの下に辿り着き、血のように紅い爪を振り上げる。
「くっ……」
ロイは諦め、目を閉じる。瞬間、生暖かいものが顔にかかる。
ーー死とはこんなにも苦しいのか……?
ファウストの強靭な爪に斬り裂かれた筈だが、痛みは先程から感じている技の反動のみだ。
不信に思ったロイは瞼を持ち上げてみるーー開いた。そして最初に見た景色は。
『まったく、仕留めきれないとは…情けないマスターだ』
皮肉気な言葉と裏腹に、傷だらけのまま尚、自らの主人の敵を倒した使い魔の姿だった。
「……俺は戻れと言った筈だぞ」
『強がるな。まったく、詰めが甘いのは昔からだな。お前は。学生時代から変わっていない』
ロイの子供のような言いぐさに氷月は腰に手を当て、溜め息をつく。
「……面目ない」
.
最初のコメントを投稿しよう!