第8章『二度目の任務と小さな守護者』

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ハイネの両手の闇が膜のように広がると同時、流星の如き姿で幾つもの漆黒の腕がネザリクスに降り注ぐ。 だが、漆黒の腕がネザリクスに届くことは終ぞ無かった。 理由は単純で、ネザリクスが放った紫紺の魔力を纏う突きはその悉くを砕き、滅し、無に帰したからだ。 「ーーー、ッち…届か、ねェ…かァ…」 しかし、崩閻槍がハイネを穿つことはなく、変わりに彼の体には不可視に限りなく近づけたワイヤーが巻き付いており、その自由を奪っているため、崩閻槍はハイネの鼻先数センチで止まっていた。 「…未だ、"その時"ではありません。ですが、暫くは眠っていて貰いますよ。復讐者(アヴェンジャ)の名を冠せし者よ… 『血舞(疾風(ハヤテ))』」 ネザリクスを捉えたワイヤーが彼を斬り裂こうと蠢いた瞬間、ワイヤーは千切れ、ハイネは防御できぬまま突然の衝撃に吹き飛ばされる。 「…ぐッ…道化師(ピエロ)、か…」 「いけませんネー復讐者(アヴェンジャ)。先程から見てイマシたがー、不様にも程がありマスよー」 「…るっ、せェよ」 ネザリクスの隣に突如として現れたのは道化師の格好をした者だ。メイクと特殊な口調のせいで男女の区別がし難い。 ネザリクスの腕を掴んで倒れないようにしている道化師はネザリクスに辛辣な言葉を浴びせ、ケタケタと笑う。 「おォや!?まさかそこにいるのワー!」 ゴキリ、と、首を直角に曲げた道化師の瞳はルーカスとレーナを捉えていた。 二人がその視線に肩を揺らすのと、ハイネと追いついたロイが道化師に斬りかかるのは同時であったが、それを地を滑るように回避した道化師はネザリクスを回収し、足元に魔法陣を展開する。 「アディオース、お馬鹿な学生諸君」 .
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