3362人が本棚に入れています
本棚に追加
「さて、これはどうしたものか…」
宿から飛び出し、魔獣が現れたという地点でロイがみた光景は
『全て…ダミー、か』
氷月が地に散らばる土塊を踏みつけながら零す。
辺り一面には恐らく何かの生物を模していたであろう土の塊が散らばっており、元々は平地だったであろう場所は無惨にボロボロになってしまっている。
「先ほどの男か…」
『まさか幻術を囮に使うとは…』
ロイが苦々しげに零すのと氷月が感心したような声を放ったのは同時だった。
「…ッ!?氷月!」
『…私達がいた宿の地点より魔力を感知、ギルドランクで表せばSSランクオーバーだ』
俯けた顔をバッと上げたロイは氷月を見、氷月は呟くように言い、地に転移魔術陣を描く。
『『転……ッ!?』
氷月が魔術陣を発動させようと魔力を込めようとした一瞬、瞬きよりも短い時間そちらに意識を向けた瞬間、地から突き出してきた土の槍に貫かれる。
間一髪避けようと体を捻ったが、土の槍は氷月の右足を貫き、氷月は動きを止める。
魔術陣は氷月が動いた時点で輝きを失い、消えてしまった。
「氷月、戻れ」
『…すまない』
ロイは氷月に目を向けることなく言い、氷月もロイを見ることなくその姿を霧のように霧散させた。
二人が互いを見なかったのは怒りや気まずさなどといった感情ではなく、目前に佇んでいた一人の漆黒のローブを着た男が原因だった。
男の顔は少し長めの銀髪で隠れており、鼻から下しか見えていない。
その男はただ"立っているだけ"…ただそれだけでロイの足は地に縫いつけられたかのように動かない。
「…ーーー!」
男が小さく、本当に小さく何かの言葉を発した時、ロイの体は宙を舞っていた。
「が…ーっ!?」
.
最初のコメントを投稿しよう!