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人間の体が宙を舞う。
言葉にすれば簡単のように思えるが、人間を横にではなく縦ーーこの場合は斜めだがーーに飛ばすのにはかなりの力が必要になってくる。
その上、ロイは決して軽くはない大剣を持っている。
その体が宙を舞う、ということは必然的にロイの体はかなりの衝撃に襲われていた。
痛みから察するに胸…胸骨の辺りに何らかの攻撃をくらった。
そう、何らかの。
ロイは今の状況に、薄れゆく意識の中かなり混乱していた。
だが、ロイが意識を失うより早く体が地に叩きつけられ、強制的に意識が引き戻される。
「…づ…ぁ゛…!」
掠れた声が口から漏れ、痛みが意識を失わせてはくれない。
ジークフリートは自らの後方数メートルの地点に突き刺さっており、胸骨は良くて罅、最悪折れているだろう。
それだけの衝撃をロイは受けたのだ。
(何故だ…身体の強化は解いていない筈…だが…生身に直撃した…)
ロイは目の前に佇む男から目を離さずにゆっくりと、氷魔術で作り出した剣を杖代わりに立ち上がり、自らの胸部に触れる。
折れてはいない。だがジークフリートを振るえるのは一度だろう。
一度振るえば遠心力その他重圧がかかって良くて折れ、悪ければ折れた骨が心臓に突き刺さることもある。
そしてそれ以前に、目の前の男がジークフリートを拾わせてくれるとは到底思えない。
「絶望的、か」
零れた声は妙に冷静で、奇妙だな、とロイは心中で苦笑したのだった。
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