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「…なぜ逃がしたのですか?」
レイフが去り、静けさを取り戻した荒野にて、錬魔釜を消したハイネにロイは不思議、といった風に尋ねる。
「まだ彼を捕えるわけにはいかないのです。彼は、被害者でもあるのだから」
ロイがその言葉を理解できずに顔をしかめるとほぼ同時、地を揺るがすほどの轟音が響きわたる。
「…次は何なんだ…」
もはや呆れたようなロイの声にハイネは苦笑を零し、徐に頭上に手を翳す。
詠唱すら無く展開された半透明の結界にロイが目を見張る間もなく、辺りに響き渡る轟音と共に広がっていた青色の視界が灰色に染まる。
「…『掬い風』」
視界が何かに遮られた次の瞬間にはハイネの魔術が放たれ、殺傷能力は無い風が渦を成して頭上を吹き荒れる。
「ぬぅ!?」
低く、大きな声と地響きの音がロイとハイネの耳朶を叩き、視界が灰から青へ。
そこでロイは漸く自らの視界を遮っていたのが生物であったと認識した。
「お元気そうでなによりですよエートゥさん」
拡声の魔術でも発動したのか、ハイネの声は荒野に響き渡るほど大きくなっている。
「…その声…ハイネの小僧か!?」
「…は…?」
ハイネがフードの下でしまった、という顔をした瞬間ロイがハイネの方に勢いよく振り返る。
「…私としたことが…失念していましたよ」
苦笑。ハイネはフードを取り、ロイに素顔を見せる。
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