第8章『二度目の任務と小さな守護者』

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学園の寮より北に少し行った先に、少しの明かりに照らされた小さな広場が在った。 真ん中には噴水が置かれ、その周りには幾つかのベンチが。 噴水の中央部分には女神像を模った像が置かれ、像の手に持たれている瓶からは少しずつ水が流れている。 「…~~♪~~~♪~♪~~~~」 噴水より少し離れた貯め池の縁で、転落防止の柵に寄りかかり、唄を歌う人影があった。 目元を隠すほどの黒髪に、比較的平均小柄であろう体躯は、ニルだ。 いつもとは違い、その髪の奥の『碧と琥珀』の瞳は夜空を見つめ、悲しげに揺れている。 彼女が歌う歌の名は『遠い遠いあなたへ【Requiem】』。今は亡き誰かへ捧ぐ鎮魂歌だ。今では、葬儀を執り行う業者くらいしか謳わなくなった唄。 ーーその唄は彼女にとっては、二度と忘れることのない、春の想い出を現したかのような、そんな唄だ。 遠い遠いあなたへ【Requiem】 ーー遠い遠いあなたへ。あなたは何故いってしまったの ーー遠い遠いあなたへ。わたしの声が届くことはないけれど、どうか、どうか安らかに。 ーー或る遠い日の出来事でした。あなたがいないことをしった日でした。 草臥れた白い靴に、擦り切れた名前、あなたは、遠い星になったとーーー。 ーー共に笑い、時に泣いたあの日々に還ることを望むけれど、あなたは夢でじゅうぶんだと笑うでしょう? ーー遠い遠いあなたへ。どうか安らかに。 ーー遠い遠いあなたへ。どうか見守っていて。
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